KATZのFLEURCAFE

KATZのフルールカフェへようこそ!!フルールカフェではKATZが収集した本・CD・DVDなどを中心に気ままに展示し,皆さまのお越しをお待ちしております。ご自由にお愉しみくださいませ。よろしくお願い申し上げます。ほぼ毎日更新中でございます。

2016年02月

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 J’ai toujours, devant les yeux, l'image de ma première nuit de vol en Argentine,
 une nuit sombre où scintillaient seules, comme des étoiles,
 les rares lumières éparses dans la plaine.

 Chacune signalait, dans cet océan de ténèbres, le miracle d'une conscience.
 Dans ce foyer, on lisait, on réfléchissait, on poursuivait des confidences.
 Dans cet autre, peut-être, on cherchait à sonder l’espace,
 on s'usait en calculs sur la nébuleuse d’Andromède.
 Là on aimait. De loin en loin luisaient ces feux dans la campagne qui
 réclamaient leur nourriture.
 Jusqu'aux plus discrets, celui du poète, de l'instituteur, du charpentier.
 Mais parmi ces étoiles vivantes, combien de fenêtres fermées,
 combien d'étoiles éteintes, combien d'hommes endormis…

  Il faut bien tenter de se rejoindre.
  Il faut bien essayer de communiquer avec quelques-uns de ces feux
  qui brûlent de loin en loin dans la campagne.

  ぼくは、アルゼンチンにおける自分の最初の夜間飛行の晩の景観を、
 いま目のあたりに見る心地がする。
 それは、星かげのように、平野のそこことに、ともしびばかりが輝く暗夜だった。

 あのともしびの一つ一つは、見わたすかぎり一面の闇の大海原の中にも、
 なお人間の心という奇蹟が存在することを示していた。
 あの一軒では、読書したり、思索したり、打ち明け話をしたり、この一軒では、
 空間の計測を試みたり、アンドロメダの星雲に関する計算に没頭したりしてい
 るかも しれなかった。
 また、かしこの家で、ひとは愛しているかもしれなかった。
 それぞれの糧を求めて、それらのともしびは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと
 光っていた。
 中には、詩人の、大工さんのともしびと思しい、いともつつましやかなのも認め
 られた。
 しかしまた他方、これらの生きた星々のあいだにまじって、閉ざされた窓々、
 消えた星々、眠る人々がなんとおびただしく存在することだろう・・・・・・。

 努めなければならないのは、自分を完成することだ。
 試みなければならないのは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあの
 ともしびたちと、心を通じあうことだ。


   サン・テグジュペリ・堀口大學訳「人間の土地」P7・8 平成10年新潮社刊 

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  飛鳥人のひらめき

 ヒノキは木目がまっすぐに通っていて、材質は緻密、軽軟、粘りがあって、
 害虫にも、雨水や湿気にも強いことはよくご存じのとおり。
 このヒノキを隅から隅まで使ったことが、法隆寺の建物を千三百年も持ち
 こたえさせた大きな理由です。
 ヒノキを削って、チョウナやヤリガンナで仕上げると、屑や木端が残ります。
 それも捨てないで、壁の下地の「木舞」などに使ってあります。

 あるいは途中で、いくども修復が行われたからこそ、千三百年も持ちこたえ
 たのではないかという人もおります。
 ところがそうではありません。
 金堂も五重塔も、それを支える柱や梁、桁など、肝心なところはすべて創建
 当時のままのヒノキです。

  西岡常一・小原二郎「法隆寺を支えた木」P46 
  昭和53年日本放送協会刊

  

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 TERRE DES HOMMES     Antoine de Saint- Exupréy

La terre nous en apprend plus long sur nous que les livres.
Parce qu'elle nous résiste.
L'homme se découvre quand il se mesure avec l'obstacle.
Mais, pour l'atteindre, il lui faut un outil.
Il lui faut un rabot, ou une charrue.
Le paysan, dans son labour, arrache peu à peu quelques secrets à la nature,
et la vérité qu'il dégage est universelle.
De même l'avion, l'outil des lignes aériennes,
mêle l’homme à tous les vieux problèmes. 


ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。
理由は、大地が人間に抵抗がためだ。
人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ。
もっとも障害物を征服するためには、人間に、道具が必要だ。
人間には、鉋が必要だったり、鋤が必要だったりする。
農夫は、耕作しているあいだに、いつかすこしずつ自然の秘密を探っている結果に
なるのだが、こうして引き出したものであればこそ、はじめてその真実その本然が、
世界共通のものたりうるわけだ。
これと同じように、定期航空の道具、飛行機が、人間を昔からのあらゆる未解決問題
の解決に参加させる結果になる。

  サン・テグジュペリ・堀口大學訳「人間の土地」P7 平成10年 新潮社文庫刊

 

  


 

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 昔男ありけり  在原業平

 元慶四年、業平は、このような歌を遺して死んだ。

  ついに行く道とはかねて聞きしかど
  昨日今日とは思はざりしを

 仏教が盛んな時代に、仏教臭のかけらもない、こんなに自然で、素直な
 歌を、今まで誰が詠んだであろうか。
 「病して弱くなりにける時よめる」 と記しただけで、実は世辞かどうかもわ
 からないのであるが。

 彼がどこで死んだのかもわかっていない。
 が、それはきっと入野のあたり、小塩の山が見える所で、「神代のこと」を
 思いながら、人知れず逝ったに違いないと私は信じている。


   白州正子「古典の細道」 P43・44 1970年新潮社刊

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  フランス日記7 エクセルシオールにて

 [エクセルシオール]は、ナンシー名物の駅前食堂である。
 このレストランは、すべてアール・ヌーボーの内装で、独特の曲線
 を存分に駆使した天井、壁、シャンデリアが七十年の歴史を積み重ね
 ていて、そのすばらしさには目をみはる。

 ロレーヌ地方の南部は農村だが、ナンシーを中心とする北部の鉄鋼業
 は、フランス随一のスケールをもつ。

 六年ぶりの[エクセルシオール]は、男装の女給仕などがいて、テーブルの
 セットもあらたまり、なんだか高級志向のおもむきになっていたが、以前の、
 つめかける市民の活気がみなぎっている雰囲気がなつかしかった。


   池波正太郎 「ル・パスタン」P181 1989年文藝春秋社刊

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 フランス日記6 ナンシーのベルガモット

 マコンに近い村のホテルで二日をすごしてから、反転して、ナンシーへ向かう。 
 この日のドライブは、いちばん骨が折れるとおもっていたが、フランスの高速
 道路は完備している上に渋滞がない。
 運転のYは、おもいきり飛ばした。
 このため、意外に早くナンシーへ着いた。

 ナンシーは十八世紀のころ、当時の領主だったスタニスラス大公がロココ様式
 をもって、つくりあげた街である。
 また、アール・ヌーボーの発祥地といわれる。

 ホテルは大公の銅像があるスタニスラス広場の一角にあった。
 十八世紀に建てられた大邸宅をホテルにしたもので、白亜の典雅な建築だ。
 ロビイからの階段など実に美しい。

 早速、外へ出て、広場に近い菓子屋で[ベルガモット]と称するボンボンを買う。
 味は日本の鼈甲飴に似ている。
 この前にナンシーへ来たときも、同じ店で[ベルガモット]を買った。

 菓子屋の女主人は、「ムッシューをおぼえています」と、いった。
 私も、この店へ寄ったことがヒントになって[ドンレミイの雨]という短編を書くこと
 ができたのである。


  池波正太郎「ル・パスタン」P179  1989年文藝春秋社刊
 

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