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  樹上座禅

 栂尾の高山寺に、「明恵上人樹上座禅像」という絵があります。
 鎌倉初期の名画なので、ご存じの方も多いと思いますが、京都の博物館で
 それを見た時、十年以上も前の感動が、そのままの強さで還って来た。

 御承知のとおり、この絵は美しい松林の中で、座禅を組んでいる上人を
 描いたもので、実に和やかな風景なのですが、自然の中に根を下ろした
 上人の姿は気魄に満ち、松にからんだ藤蔓の末まで異常な力がこもって
 いる。柔和な表情の奥に秘められたこの強さ、それは正しく春日竜神の
 世界でした。
 私が持っていたお能の下絵に、似すぎていた為か、この絵はよく知っている
 と思い、やがてはじめて見たことに気づき、唖然としました。


   白州正子「明恵上人」P9 昭和四十二年講談社刊